大手の個別指導塾で教室長を務めたのち、オンライン個別指導塾LUMINAを開いた柳元先生にお話を伺いました。
丁寧な言い方をする先生です。質問をすると少し考えてから、言葉を選んで答えます。その柳元先生が話の中で何度も立ち返ったのが、教室長時代に保護者面談で最も多かった相談です。塾では頑張っているのに、家ではやらない。
「家ではやってません」から始まった
——塾を始める前は、どんなお仕事をされていましたか。
「大学進学後すぐから個別指導塾でアルバイトを始め、大学4年間はずっと指導を続けていました。そこから塾の仕事に興味を持って、卒業後は大手の個別指導塾で教室長をしていました」
きっかけは、高校生の時でした。大学受験にあたって近くの個別指導塾に通い、そこで大学生の講師に教わる機会がありました。「そのときの先生がすごくいい先生で、私も大学生になったら、そういうふうに教えたいなと思ったんです」。そこから始まった、といいます。
大学時代は、教室長になりたくて個別指導塾を3つ、4つと掛け持ちしました。1対2、1対3とやり方も違えば、同じフランチャイズの同じ塾でも教室長によって雰囲気が変わる。「良いところは学びたいと思って」、いろいろな教室を経験したそうです。
卒業後に教室長を任されたのは、本人いわく800〜900校ほどあるフランチャイズでした。授業だけでなく、保護者面談、教室運営、マネージャー的な立ち位置の仕事も経験しています。講習ではフランチャイズ全体で全国1位になったこともありますが、そこは「売上の実績ではありますが」と言い添えたうえで、こう続けます。「塾の仕事そのものには、すごくやりがいを感じていました」
教室の雰囲気を決めるものは何か。返ってきたのは、やり方の話ではありませんでした。
「一番は、教室長の人となりです。どういうやり方や理念があったとしても、教室長の人となりや声かけ、保護者に対するホスピタリティが一番大事だと思っています」と話します。保護者の側も深く悩んでいることが多いからです。そこをサポートできることが、いろいろな塾を見てたどり着いた答えで、今も大事にしているところだそうです。
では、独立を決めた「瞬間」はいつだったのか。そういうものではない、という答えです。「この時に決めた、というよりは、いろいろな経験が積み重なって、少しずつ決まっていった感じです」
積み重なったものは、3つです。
1つ目は、大手にいたからこそ感じた難しさです。「授業は個別なんですが、授業の外のサポートまで一人ひとりに合わせて、全員に行き届かせるのは難しい。その難しさをずっと感じていました」といいます。
2つ目が、保護者面談で一番多かった相談でした。塾では頑張ってやってるけど、家ではやってません。家庭学習はどうしたらいいですか。
大手塾でこの相談を受けたときの答えは、だいたい決まっています。宿題をこまめに出します。自習室に来てください。講習を受けましょう。
「家にいる時間が一番長いと思うので、家で自分でできる習慣をつけてほしい」。そこを何とかしてあげたい、という思いが残りました。
3つ目は、自分が親になったことです。上の子が小学生。家で勉強していなかったら、親としては気になってしまう。
塾でいくらやっていたとしても、やっぱり親が見ているのは、家での姿ですから。
塾で授業もして、家でどうするかも一緒に丸ごと支えられる仕組みがあったらいい。それが、今の塾の原点です。作りたかったのは「自走できる、自分でやろうとする、やる気が出る仕組み」でした。自走という言葉は、今もInstagramの投稿によく出てきます。
教材を開く前に、その子を知る
——入ったばかりの生徒さんに、まず何をされますか。
「いきなり『これを勉強しましょう』と決めるよりも、まず信頼関係が一番大事だと思うので、その子のことを知ることを大切にしています」
それができてから、今どんな勉強をしていて何が得意か、普段家でどう勉強しているかを聞きます。「お母さんやお子さんがどこで困っているのか、将来どういう高校に行ってどうなりたいのかも聞いたうえで、必要なことを一緒に整理しています」と話します。
ただ、オンラインには最初に壁があります。「オンラインって、最初はちょっと壁があると思うんです」と柳元先生は言います。子どもの側も、最初はとても緊張しているそうです。
そこで柳元先生がするのは、勉強から離れることです。最初は趣味の話、好きなテレビ、食べ物。オンラインをよく使っている子が多いので、好きなYouTuberの話も出ます。勉強と全く関係のない話も、よくするそうです。
「まずは、楽しいと思ってもらうことが一番だと思っています」と話します。ここでオンラインで授業を受けることが楽しい、と思えれば、そこから先生の話を聞いてやってみようか、という前向きな気持ちになれる。少し盛り上がってから、信頼関係を築いていきます。
意外だったのは、オンラインに戸惑っていたのが先生の側だったことです。「私自身、最初にオンラインで始めたときは、すごく違和感があったんです」。今の子どもはスマホやパソコンに抵抗がなく、やり方を説明しようとしても、「全然できている子が多くて」と話します。
「オンラインは今の子に合っているのかな、合う子が多いのかな、という印象です」と柳元先生は言います。
成績と同じくらい、「学びの土台」を
——成績以外のところで、大切にされていることはありますか。
塾なので成績を上げることは必要だと前置きしたうえで、柳元先生は自分がよく使っている言葉を挙げました。それが「学びの土台」です。
中身は、4つの力に分けられるといいます。自分で勉強を始めようと思う力。部活や習い事、学校がある中で、自分で勉強する時間をどう使っていくかを自分で考えられる力。分からないことをそのままにしない力。そして、忘れないように振り返っていく力。
この4つをひっくるめて「学びの土台」と呼び、「それを、成績と同じくらい大事だと思ってやっています」。
短期的には、成績を少しずつ上げていけるようになること。長期的には、自分でテスト勉強を計画して、自分の方法でできるようになること。それを目標にしてもらっています。
この考え方は、対象学年の線引きにもつながっています。見るのは、中学3年生までです。
「高校生も見られないことはないんですけど、自分でできるようになって卒業してもらいたい、という気持ちで」といいます。
高校生になると、自分で計画を立てて時間の折り合いをつけられないと難しい。しかも今はスマホで時間が消えていく子も多い。逆に、中学までに土台ができていれば、高校でも、大人になっても生きてくる。「保護者の方にもそれを特にお伝えしているところです」と話します。
お母さんも入る、毎日のLINE
宿題は、毎日、柳元先生が計画します。生徒はそれを毎日LINEで提出し、できればその日のうちに添削とアドバイスが返ってきます。
このやり取りは、生徒と先生の2人だけのものではありません。グループLINEに、お母様にも入ってもらっています。
「お母様がチャットで何か言う必要はないんですけど」と柳元先生は言います。見てもらうだけでいいのです。日々やっている姿や、どこが成長しているかが分かりやすいからです。そこに、柳元先生がたまに言葉を添えます。
保護者には、宿題の状況で気になったことや成長している点があれば、その都度LINEで伝えます。頻度を聞くと、生徒とはほぼ毎日。保護者とも「1週間に1、2回は絶対にしていると思います」という答えでした。

パンフレットと、月ごとの「成長記録」の用紙。その月に「できるようになったこと」を教科ごとにまとめる。
それに加えて、数か月に1回の定期面談があります。目指す距離は、かなり近いところです。「保護者の方が気軽に相談できる関係を目指しています」といいます。保護者にも信頼関係を持ってもらいたいからです。
「困ったことがあれば、すぐ言ってもらえるような仕組みを作っています」と話します。
20点だった英語が、1か月で70点に
記憶に残っている生徒について聞くと、1人の中学生の話になりました。
学校に行きづらい時期が何年かあった子で、その分の学習が抜けていました。中3の時点で特に英語が苦手で、「よく取れても20点ぐらい」。苦手意識も強かったといいます。
部活も、とても忙しい子でした。毎日、土日も部活。休みがほとんどなく、授業の時間そのものが取りにくい生徒でした。
効いたのは、移動の時間がないことでした。帰ってきてから、寝る1時間前に授業を受けてもらう。忙しいのでたくさんはできません。だから毎日少しずつ、10分でも15分でも続けてもらいました。
1か月後の定期テストで、英語は70点ぐらいになりました。
ご本人、お母様、そして学校の担任の先生も驚く結果でした。その後は90点以上をとれるようになりました。
柳元先生がそこから受け取ったのは、点数より、日々の家での10分、15分の重みでした。振り返ったり繰り返したりする力がとても大事だと思ったそうです。「授業だけではなく、授業の外のサポートの必要性を、その生徒さんですごく実感した出来事でした」といいます。
声かけにも、加減がありました。「『勉強頑張ろう、勉強頑張ろう』と言い過ぎず、でもやってもらえるような声かけを大事にしていました」と話します。
この経験は、もう1つの手応えにもつながりました。「部活が忙しい子にも、とても合うんじゃないかなと思います」

オンライン授業の画面。教材を画面共有し、要点に印を付けながら進める。
「対面に行けないから」ではなく
言い残したことを聞くと、オンライン塾そのものの受け取られ方の話になりました。
「オンライン塾って、保護者の世代にはちょっと抵抗がある方が多いと思うんです」といいます。地図アプリにも載せているからこそ、「対面はないんですか」という問い合わせも来るそうです。
だから、Instagramで発信しています。「オンラインという選択肢もあるんだ、と思ってもらいたくて活動しています」と話します。
そのうえで出てきたのが、この塾は何をする場所なのか、という一文です。
単にオンラインで授業をする塾ではなく、オンラインで授業をしながら、安心して家で学び、自分で学んでいく力を育てていく場所。
引っかかっているのは、オンラインが次善の策として扱われることです。対面に通えない状況だからオンラインにする、と考えている方も多そうだと感じています。
「そのイメージを変えていきたいです」
対面とオンラインを、最初から選択肢として挙げてもらえるように活動していきたい、といいます。
その裏には、対面の教室にいた頃の光景があります。集団塾でも、授業は個別の塾でも、ほかの生徒と鉢合わせすることがあって行けない子は多い、と柳元先生は言います。鉢合わせしたくないから、わざわざ遠くの学校から通ってくる生徒もいました。
オンラインなら、生徒の移動時間も、保護者の送迎の時間もなくなります。その分を子どもの復習に充てることもできます。
——どんな生徒・家庭に来てほしいですか。
「勉強が苦手な子はもちろん、やり方が分からない子、なかなか家で勉強できない子、集団塾に通っていて集団の環境が合わない子」と、柳元先生は具体的に挙げます。
不登校コースもあるため、学校に行きづらい時期がある子、自分のペースでやっていきたい子も対象です。
今すぐ困っている子だけではありません。「その子に合った環境があれば、もっと学べるんじゃないかと思っている子」、「自分で決めて学べるようになりたい、という気持ちがある子」にも来てほしい、といいます。
合わないかもしれない場合も、はっきりしています。「『絶対に対面がいい』というのを一番に求めていたら、合わないのかなと思います」。それ以外はオンラインで対応できる、というのが答えでした。
最後に聞いたのは、これから先のことです。
「その子に合った環境で、オンラインで学ぶ選択肢を広げていけるようにしたいと思っています」
オンライン塾の良さを、さまざまな生徒に知ってほしい。そんな思いが終始伝わってくる取材でした。

